一流のエイベックス

一流のエイベックス

「量販店にも置いてあるブランドよりも、百貨店にしかないブランドを優遇して高級感を保ちたい」という百貨店側のプライドの高さが、交渉においては外資系メーカーに有利に働いている。 どろどろとした攻防戦が舞台裏で繰り広げられてはいるものの、表舞台ではその片鱗も感じさせない。
百貨店の化粧品フロアはあくまで華やかで美しく、カウンターの内側では美容部員が笑みを浮かべて客を迎える。 この光景が女性に夢や高揚感を与え、化粧品のブランドカを向上させ、新製品や限定品の発売日に長蛇の列を生むのである。
そこでしか手に入らない、という限定条件のポテンシャルは高い。 時に新製品以上のパワーを発揮する限定商品は、「キット」あるいはフランス語で小箱を意味する「コフレ」と呼ばれ、ブランドのロゴが入った可愛いポーチに小さなサイズの化粧品を詰め合わせたものが一般的だ。

都内百貨店の化粧品バイヤーはその効果について、「年数回のコスメフェアの開催時に限定商品を売り出していますが、個数、購入場所、時期を限定することで、驚くほど購買意欲があがります。 人気ブランドの限定商品の発売日には10時の開店前に列ができ、お昼過ぎに売り切れるということはざら」と証言する。
百貨店とメーカーが手を組んで、百貨店限定、時には「伊勢丹新宿店だけ」といった個々の店舗限定の商品に力を入れるのは、その集客効果を知り尽くしているからだ。 景品表示法により景品の総額は商品の定価の10%以下と制限されていることから、メーカーはおまけではなく限定商品に力を入れて顧客の固定化を図ってきた。
が、今のように華やかになったのは80年代後半のバブル経済の頃からだ。 1個3万円以上もの限定商品が登場し、容器の豪華さもどんどんエスカレート。
各ブランドがしのぎを削る限定商品戦争が繰り広げられた。 90年代以降も、限定商品の人気は衰えを見せていない。
ただし堅実志向が強まり、1万円を超える商品は少なくなった。 いま価格は平均5000円前後だ。
消費者も、「このブランドの限定商品ならとにかく買う」から「中味をチェックしてメリット大なら買う」という時代に突入している。 限定商品がもっとも賑わうのはクリスマスシーズンだが、外資系ブランドの中には年間を通して何らかのキットやコフレを発売しているところが多い。
中には、百貨店での売上げの半分がキットで占められるというブランドもある。 限定商品を、ブランドを体験してもらう導入編として位置付けているにしても、ここまで売上げに占める割合が高いと急には減らせないはずだ。

可愛い限定商品は女性にとって甘美であると同時に、メーカーにとっても麻薬のように依存性の高い商材なのであ限定商品の魅力は、高額商品のミニサイズや特別に開発された色味の口紅、発売前の化粧品など、ふだんは売っていない商品、なかなか手が出ない商品がセットされていることにある。 もう1つ見逃せない要素が、商品が入っているブランドのロゴ付きのポーチやバッグだ。
これらはその都度仕様を変え、どこかに新しさを打ち出してファンの前に登場する。 ロゴを付けて記号性を高めた作りも、女性のブランド志向を直撃する設計だ。
例えばクジスチャンーディオールの限定品であれば、ポーチには必ず「D」のロゴが入るが、ポーチの色やデザインは発売時期によって変更される。 ディオールファンにとってはぜひとも手に入れておきたいアイテムに違いない。
海外高級ブランドは日本人がロゴに弱いことをよく知っている。 ただし、Sは例外だ。
Cの文字を組み合わせたおなじみのロゴは、限定品では見ることはできない。 関係者によれば、本社の許可が下りず、プロモーションにロゴを使うことはいっさいできないのだそうだ。
Sのロゴ入り限定品が登場すれば売上げが上がることは確実と思われるが、日本法人になす術はない。 もったいない話である。
ところでこれらのバッグやポーチは、百貨店が作っていることが多い。 百貨店の外商部が化粧品メーカーから製造を請け負って作ったものに化粧品メーカーが商品を詰めて、限定商品を販売する百貨店に納入している。

限定商品を販売する百貨店と、ポーチの製造元の百貨店とは必ずしも一致しない。 外商というと、上得意客の自宅に出向いて宝石や時計を売るという個人外商のイメージが強いが、法人相手の外商は客の要求に応えてどんなものでも調達し、作っている。
その守備範囲たるや、ユニフォームや会社備品の製造からオフィスやホテルの内装、ゴルフ大会のプレミアムまで実に幅広い。 人間と棺桶以外は何でも調達すると言われる彼らにとっては、限定商品用のバッグなど朝飯前の仕事なのだ。
とはいえ、メーカーの予算は年々渋くなり、ぎりぎりの条件の中でアイデアを捻出しているという。 こうした裏方の努力で、限定商品のデザインや機能、オシャレ度は確実にグレードアップしている。
海外にもこうした限定商品はあることはあるが、使いやすくて可愛いバッグやポーチ入りなどは少ない。 日本は限定商品の先進国だ。
もっとも、いくら優れた商品であっても、その力を最大限に発揮するには美容部員の存在が不可欠だ。 百貨店の売り場に立つ美容部員は、そのほとんどが店の従業員ではなく、化粧品メーカーから派遣されている。
企業によってビューティカウンセラー、ビューティアドバイザーなど名称は異なるが中身は似たり寄ったりで、化粧品に関する知識や技術を武器に購買意欲をダイレクトに刺激し、化粧品を販売する仕事である。 ただし、強引なセールストークを重ねても客に敬遠されるだけなので、売らんかなではないスキルが求められる。
その上で、高いコンサルティング能力、メイク技術を身につけると鬼に金棒。 1人で100名以上もの顧客を抱え、その手でメイクしてもらいたいと地方から足を運ぶファンを持つ美容部員も少なくない。
だが、その仕事はなかなかにハードだ。 早番、中番、遅番の3交代制で、勤務時間はお昼休み1時間、夕方の休憩時間30分を除いて実質7・5時間労働。

この間、ほぼ立ちっぱなしだ。 女性の場合、化粧が崩れてきたら休み時間を利用して、すべて落としてからまたメイクをやり直す。
職業上、化粧崩れは厳禁なのだ。 国内メーカーの大半は美容部員に売上げノルマを課しているが、外資系のブランドでは特にノルマはないことが多い。
ただし、その月の推奨品の数字目標は設定されている。 美容部員が客の目当ての商品以外に「特にお勧め」として商品を紹介する時は、ほぼ間違いなく各ブランドが設定した推奨品だと考えていい。
口紅やアイシャドーなどメイクアベフ化粧品に強い、ある外資系ブランドに勤める男性美容部員によれば、「1日の接客数は15人程度。 毎月、個人別の販売客数、総売上げ、カテゴリ別の販売数量、客単価などがすべてデータとして会社に送られ、売り場に設置された端末で、スタッフ全員が過去にさかのぼって個人別の売上げ情報を照会できる」という。
このシステムは強烈なプレッシャーだ。 これだけの仕事をこなして、年収は新入社員でおおよそ200万円程度。
キャリアが長くなり、指名客を数多く抱えるようになると上がっていくとはいえ、仕事の量や内容からいえば決して楽な商売ではない。 職場異動が多いのもつらいところだ。

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